第1話のエクシアの動きに関しては、中谷さんのおかげでイメージがはっきりした部分が多いんですよ。
第1話のアクションシーンは、大塚(健)君が担当していて、アクションに関しては描く段階でイメージを伝えてあったので、コンテである程度出来上がっていたんです。それを僕がチェックするときに、コンテの中では表現できない動き……たとえば「GNドライヴは反重力エンジンと同じで、MSはちょっと浮きながら動いている」とか「ちょっと滑るように移動する」というような動きの意図を捕捉的に書いたものがあって、そこを中谷さんに拾ってもらったという感じですかね。
完成した第1話の映像を観ていただくとわかるんですが、エクシア初登場の着地するシーンは、空中を滑るようないい動きで描いてもらっていて素晴らしかったんです。でもカットが短くてジャンプショット的なつなぎになっているのが今更ながら勿体なくて。あの時はどんなクオリティになるのか判っていなかったからあのテンポでカットしてしまったのですが、「中谷さんだったら、もっと尺があってもきちんと描いてくれただろうな」と、エクシアの動きをもっとじっくり描いてもらえばよかったと後悔しているんですよね(笑)。
映像では、エクシアが実際に設定している重量よりも軽く見える感じ……特に、GNドライヴの特性を活かしたフワっとした動きはすばらしかったです。戦闘シーンのアクションだけでなく、そうした移動や振り向きという動作で、GNドライヴの動きの特性を出す画を上げていただけたのは助かりました。こちらからの、「こういうメカで、こういうことをやりたい」と言っていた要望に真摯に応えてもらった結果が、あのシーンに出ていたんだなと思いますね。
それもあったかもしれませんが、海老川さんが描いたエクシアのもともとのデザインを見て思い浮かんだのが、1話での動きだったんですよね。
GNドライヴのデザイン的な部分が与える印象は大きかったかもしれないですね。だから、演出的に違う見せ方には進まなかった。
ただ、動きの面でそういう大きな特徴を出せたのはエクシアだけでしたから。デュナメスは長距離射撃型ということで、宇宙世紀に登場するガンダムの頃からたくさん存在するタイプなので特に新しいわけではないですし、キュリオスは直線的に高速で飛行する、そしてヴァーチェは大砲を持っている……とビジュアル的にはステレオタイプな描き方でしたから。この3機に関しては、逆に違う見せ方をしようと思うと大変だったかもしれないです。だから、エクシア以外の3機のガンダムに関しては、映像的な見せ方は割り切っていたところはありますね。
企画の段階から、エクシアに関してはある程度ルックスから機能まで新しいモノをという感じでしたが、残りの3機に関しては全部が揃って新しい方向に向いてしまうことに抵抗感があったのは事実なので、まさにその通りですね。
3機のガンダムは判りやすくいったことが良かったんじゃないですかね。
保険ではありましたが、結果、よりキャラクター性がはっきりした気がしましたし。
結局、設定画のポーズ集的なものを作れたのもエクシアだけでしたからね。エクシアに関しては、肉弾戦専用というところで、今までにないガンダムでしたから。
最初から計算づくでやったわけではないんですけど、うまくキャラクターが育ったというところもありますね。これだけ大きな剣を持っているから、剣主体で攻撃するというのも判りやすかったし。事実、「今、子供が喜ぶのはどういうアイテム?」ってバンダイさんに聞いたら「大きい剣です」って言われたことが、エクシアに剣を持たせた理由でもありますからね。
脚本担当の黒田君がガンダムが大好きで、マッシブなプロポーションのエクシアだからこそ他のガンダムではあまりやっていない肉弾戦をやりたいと言っていて、逆に残り3機のガンダムでは今までのガンダムを継承する見せ方をしたいという提示を受けたんです。そこで生まれたのが、射撃型と変形型と重装タイプという3機のガンダムなんですよね。だから、当初「後方支援型とツーマンセル(二人一組)で、誰と誰が組んでミッションをクリアしていく」というようなスパイアクション的なこともやろうと思っていたんだけど、シリーズの2分割化が決まった時点でその辺りはできないだろうということになって。そこはもったいなかったですね。
でも、このエクシアのポーズ案があったから、1話と2話の完成度が高くなったのは確かですね。
ガンダムデュナメス
■設定画 ガンダムデュナメス
ガンダムキュリオス
■設定画 ガンダムキュリオス
ガンダムヴァーチェ
■設定画 ガンダムヴァーチェ
前回の西井さんに続いて、アニメーターの中谷さんにお願いしました。
アニメーターの方に参加してもらった理由は、本編に存在したシーンや躍動感のあるシチュエーションを描いてもらうならば、アニメーターの方が得意だと思っていたのと、その場にいる人が見た視点(シチュエーション)を指定した場合どのようなものが上がってくるのか見てみたいというのがあったんです。そういう意味では、第1話のエクシアとイナクトを選んでいただいたのは、すごく嬉しいですね。
本当はやられているイナクトを描こうかなと思っていたんですけど(笑)。
メカ的には、イナクトやフラッグとかが好きなんですよね。今回は腕だけになってしまいましたが(笑)。
確かに、中谷さんが版権イラストでイナクトやフラッグは描かれていないので、そっちも見てみたいですけど。ここでイナクトになってしまうと、主役級のメカがいつ来るのか判らなくなってしまう(笑)。
今回選んでもらったシーンは、第1話のハイライトシーンでもあるし、作業的にもこだわりを持って作画監督をしていただいたところなので、僕自身も印象深いです。特に、GNドライヴのディテールに関してのやりとりなんかは、その後の作品作りに影響しましたからね。
作画しながら、こちらから提案したものですよね。
そうなんですよ。中谷さんが画面密度として足りないんじゃないかって提案してくださったのを、デザイナーの海老川君に見せたら「これ、カッコイイので、このまま行ってください」ということになって。
忙しい中でも、作品の方向性を考えていろいろな見せ方を提案してくださったし、こちら側の「こんな風に描いて欲しい」という要望にも応えていただいて、しっかりとコミュニケーションがとれて作業できているなと実感したシーンなんですよね。だから、ここを選んで貰えたのは嬉しいんです。
そう言ってもらえるとこちらも嬉しいです。
中谷さんは、なぜ第1話のこのシーンを描こうと思ったんですか?
最初に今回のお話をいただいた段階で、海老川さんも柳瀬さんもガンダムを描いてなかったので、漠然とエクシアかダブルオーを描こうかと思っていまして。その中でも、やっぱり第1話のこのシチュエーションが僕も力が入ったし、印象に残っているので選びました。
構図的には、観覧席の最前列の下段から見上げている感じです。『ガンダム00』の世界を象徴する軌道エレベーターをバックに、エクシアのアクションを描こうと思っていたので、実は劇中とはポーズが逆なんですが、あえて見栄えを優先して描いています。イナクトの腕だけが飛んでいるのは、構図的に、このあたりに何か破片があるといいかなと思っただけなんですよね。
でも、そのおかげで第1話だということも判りますからね。さらに、今回はご自分で色も塗られているんですよね。
そうです。普段の作画作業では塗りはやらないですから。
でも、塗りはこだわり始めたらキリがないんですよね。今回の原画はA4サイズで描いているんですが、色塗り用のソフト上ではいくらでも拡大ができるから「ここにこういうディテールを追加しようか」ってことにもなるので、デジタル作業になってから、さらにキリが無くなりました。
終わらないんですよね。ゴールが無くなってしまうので、やっぱり締め切りって大事だと思います。締め切りがあるから、ゴールをどこにするかきめられますからね。
中谷誠一(なかたに・せいいち)
アニメーター、メカニックデザイナー。大阪在住。『勇者シリーズ』をはじめ、数々の作品でメカ作画監督を担当。サンライズ作品では劇場版『機動戦士Zガンダム』(作画監督、作画監督補佐)、『コードギアス 反逆のルルーシュ』(メインアニメーター)などに参加している。『機動戦士ガンダム00』では、アニメーションメカニックデザイン、メカニック作画監督を務めている。
ガンダムエクシア
ソレスタルビーイングが開発した近接戦闘型のガンダム。「セブンソード」の開発コードを持ち、その名の通り7種類の剣型の武装を装備している。実体剣を装備することによって、GNフィールドを展開可能な機体が相手になった場合でも、接近攻撃が可能な機体である。アルヴァアロンとの戦闘で中破するが、半壊状態で独自に行動。その後改修され、
ガンダムエクシア リペアⅡとして、イノベイドとの最終決戦にも出撃している。
■設定画 ガンダムエクシア