そこで海老川さんと話していたときに、キュリオスのその後はどうなったんだろう? っていうアイディアが出たんです。アヘッドが人革連の系統のデザインになったのは、そもそも人革連がキュリオスを鹵獲したことが、MS開発のアドバンテージになったのかもしれない。それならキュリオスにティエレンの系統の腕をつけたテストもあったんじゃないか……っていうネタを提供してもらったんです。
ほかにもキュリオスの手足にGN-Xパーツをつけたテスト飛行シーンとかあったよね。キュリオス鹵獲後っていうテーマは共通だよね。
キュリオスって、ファーストシーズンの最終決戦で、腕と足が壊れたじゃないですか? そこでGN-Xの手足をつけてテストをした……っていう方向性だったんです。でもそれだと背景が描けない。そこで今回は連邦戦艦の格納庫のイメージをもってきて、格納庫内でのテストにしたんです。これは手首だけGN-Xなんですよ。GN-Xの手首とティエレンの腕に、ガンダムをつなぐ……っていうイメージで、アヘッドに行きつくところを想像できますし。細かいところでは、GN粒子供給コードをそのまま接続できないので、変換コードをつないでいたり、後ろにはGN-Xの疑似GNドライヴをつなげているという感じですね。
今回はシチュエーションに関しては明確だったから、まったく問題はなかったね。あとはそれを、どうやってドラマチックに絵作りをするかというのがポイントだった。
柳瀬君は室内を描くと設定画っぽい描き方になっちゃう、っていうのかな。アニメーターにわかりやすく描いてもらうためには適しているんだけど、臨場感という部分では足りなかった。なにが一番臨場感を損ねちゃうかっていうと、カメラが室外に出ちゃうことなんだよね。ある程度、広角レンズを意識しているわりに、壁をぶち抜いて引いた絵になってしまっていた。この情景を見ているカメラがその空間の中に居るように描かれていないことが問題だった。僕は3Dを使わないからわからなかったんですけど、海老川君と話しをしていたら、広角レンズで画面の端がゆがんだりする表現は、3Dにとって相当苦手なものらしい。だからフレームの一番端が歪んで強烈になるところに、どうしても弱さが出てしまっていた。
3Dソフトで組むと、そういう部分はどうしてもおかしいと見えてくるんですよね。そこで整合性を取ろうとすると、どんどん引いた絵になってしまう。
3Dのままだとデジタル上でカメラを後ろに引いているだけなので、フレームの端の部分には当然レンズ効果はないんですよね。今回はその状態をベースにして、レンズの歪みを加えてみる……ということをやっています。
海老川君は、なるべく3Dは使わない派なんだけど、僕は便利だったら使えばいい派。結局、両方のいい部分をどうやって融合させるかなんだよね。今回、カメラを買ってみて、実際にちょっと触っただけでも違いは出たんじゃない?
たぶん、絵描きさんは感覚としてわかっていると思うんですよね。自分がいかに製図屋の出身かというのがよくわかった気がしますね。
もともとゲームの3Dから入っているもんね。ただメカデザインのセンスがすごくあって、それを細かく提示するのは上手なんだよ。一方でイラストが描けないってわけじゃなくて、単に気づいてなかったっていうのかな? 柳瀬君は最近、かっこいいイラストを描きたい! って気持ちが高まってきたんで、いい変化だなって思ってた。でもちょっと踏み込みが足らなかったから、「カメラ買おうよ!」って勧めたんだ(笑)。実際に体感して覚えるほうが早いからね。
実際レンズを覗いてみると、たとえばビルってこんなに歪むんだなっていうのが実感できた……という感じですね。とにかくカメラを持ち歩いて、いろんな場所で撮影してみます。
ガンダムキュリオス
高速戦闘を重視し、変形機構を備えたガンダム。飛行形態への変形によって、西暦2307年当時のMSの中では、突出した機動性を獲得した。機動性を優先したためか他のガンダムに比べ若干火力は低下したが、高速戦闘能力は抜きんでている。また攻撃面では、オプションのテールユニットを搭載することにより、様々なミッションに対応できる。国連軍との最終決戦「フォーリン・エンジェルス」では、攻撃力と機動性を底上げするテールブースターを搭載し、完成度を高めている。同作戦ではGN-X部隊との激戦ののち、オリジナルのGNドライヴを放出、被弾した機体とマイスターは、人革連に回収された。
■設定画 ガンダムキュリオス
アニメはかっちりとした絵を作るっていうよりも、気持ちのいい絵を作るのが前提になってくるからね。特にうまいアニメーターほど、そういう部分に関してきちっと考えて絵を描いている。
3Dをダイナミックに見せるっていうのは大変かもしれないけど、たとえば羽原信義さん。あの方は日本のアニメーションにおいて、3Dを効果的に見せるっていうことに大きな影響を与えた人だと思う。アニメの『ZOIDS』があんなに躍動感があってよく動いたのって、羽原さんが最初に「関節を外してください」っていった言葉がとても大きかったらしいんだ。軸と関節を動かすだけじゃ、アニメの躍動感は出ない。関節を外すぐらい大胆な動きじゃないと、3Dの動きはアニメーションにかなわないってことなんだ。絵と動きの効果っていうのを羽原さんはとてもよくわかっていて、モデルを崩すっていう3Dの既成概念をぶっ壊した最初の人だと思うよ。
他の3Dを使ったアニメでも、現在ではモデルを変形させることが普通に使われるようになっていますよね。
ZOIDSの成果が、現在の日本のアニメにおける3Dに与えた影響は大きいと思うよ。
羽原信義(はばら・のぶよし)
XEBEC取締役。アニメーション監督、キャラクター&メカニックデザイナー、アニメーター。葦プロダクション所属時に、『特装機兵ドルバック』(メカデザイン)、『超獣機神ダンクーガ』(作画監督) 、『マシンロボ クロノスの大逆襲』(キャラクターデザイン)などの作品に参加。XEBEC設立に携わり、『蒼穹のファフナー』(監督)など、多数の作品を手がける。
今回は柳瀬君の2回目なんだけど、実はこのイラストを完成させるために、「カメラを買おう!」って勧めたんだよね。柳瀬君は3Dをベースに絵を描くのに、以前からパースのついたイラストが苦手だった。特に空間を見せる絵を描くとき、カメラ位置や画角を意識出来ていなくて臨場感を損なっていたんだ。
水島監督や海老川(兼武)さんにも、奥行きの出し方を言葉では聞いていたんですけど、それをどう実際に形にすればいいのか、感覚としてわかっていなかったんですよね。
形状を説明する設定画に関して、柳瀬君はまったく問題がない。でも1枚絵でドラマを語ろうとしたとき、どうしても説明的で臨場感が出せなかったんだ。だから実際に画面構成を感じるために、フレームを通して見るカメラを買って、ファインダーを覗いてみれば、切り取られる空間のイメージが掴めるんじゃないかと思ったんだよ。で、実際にカメラを買って、広角レンズを覗いて、その上で上がってきたのが、今回のイラストなんだよね。凄く臨場感のあるものに仕上がっている。それで、今回のイラストになったのは?
まずメカ背景を描くか、ダメージを描くかっていう候補がありました。ダメージの設定は以前から描いていて、本編でもアニメーターさんが拾ってくれてうれしかったんです。だからいつか描きたいなと思っていまして。実際にダメージ設定が使われたシーンは、セカンドシーズンのクライマックスでダメージを負ったケルディムとかがわかりやすいと思います。
描いたものが無駄にならない、っていうのはいいよね。現場の人間は参考になる設定画ってすごく欲しい。全部動かすと厳しいけど、たとえばアップになったときにできるだけ描いてくれる。00は設定が優秀で作業が先行出来ていたので、作画にかける時間もとれた。ほんと良い現場になっている。
ただアニメーターさんに聞くと、こういう部分はやらせてほしいっていう場合もたまにあって、どうしようかなって思う部分もありますね。
それもあるね。寺さん(寺岡賢司氏)なんかは、「アニメーターが考えればいいんだよ」っていうスタンスだもんね(笑)。彼はアニメーター出身だから、設定がないと描けないというのはダメだって、わからなければ資料を自分で集めて描くようにしなければ上達しないという考え。僕もその考えには同意です。でも今回はメカ背景のほうだよね。
実は、最初にデュナメスの壊れたバージョンを描こうと思っていたんですが、「それは監督に予想されていますよ」ってタレこみがあって(笑)。
(笑)。
柳瀬敬之(やなせ・たかゆき)
メカニックデザイナー、イラストレーター。『ガンダム00』では、ガンダムエクシア、ダブルオーガンダムを除く、ソレスタルビーイング側のガンダムのメカデザインを主に担当。『機動戦士ガンダム MS IGLOO』や『交響詩篇エウレカセブン』などにメカデザインとして参加。劇場映画『ブレイク ブレイド』ではメインメカデザインを担当している。